建築に用いる接着剤として、現代は化学物質系のものが主流ですが、日本では古来、自然素材を原料とする接着剤が用いられてきました。
昔の大工さんの朝一番の仕事は、ご飯をヘラでこねた接着剤「米糊(こめのり)」を作ることだったと言われています。
自然素材の接着剤というと接着力が心配な気もしますが、用途によって種類を使い分けることで、十分な耐久性を発揮するのです。
膠は、動物の皮や骨などの結合組織の主成分である「コラーゲン」に熱を加え、抽出をして作るゼラチン質の接着剤。ヨーロッパでは紀元前から用いられてきたほど、長い歴史があり、平安時代に日本に伝わってきました。
高温では液体ですが、常温では固体になるという性質を利用して、建材の接着に用いられます。
わずか5秒で接着することができることから天然の瞬間接着剤とも呼ばれ、窓枠やフローリングの取り付けに重宝される素材です。
文字通り「米(炊いたご飯)」を原料とした接着剤です。剥がれやすそうにも思われますが、実際には木工用ボンドと同程度の接着力を持ち、接着効果は100年以上とも言われるほど。
さらに、木材を接着する場合、熱を加えた米はα化(高分子化)し、固まれば木と一体化します。そのため木が膨張したり収縮したとしても剥がれにくく、木材とはとても相性の良い接着剤であるということができるのです。
ぎんなん草は、東北地方や北海道に自生する海藻です。このぎんなん草を煮詰めた液が「ふのり」と呼ばれ、水に濡れると溶けて容易に剥がせるという特徴から、障子などに用いられてきました。
また漆喰を塗る際にも、ぎんなん草をノリとして混ぜることで適度な粘度が加わり、作業性が良くなります。
一般に普及している化学素材の接着剤は、人体に有害なホルムアルデヒドを含み、シックハウス症候群などを引き起こす可能性があります。その点、自然素材の接着剤は空気を清浄に保ち、からだに優しいことが大きなメリットと言えるでしょう。
数100年前の建築物が現存しているという歴史が証明する、高い耐久性もポイントです。
自然素材の接着剤は扱いが繊細で難しく、施工に慣れた職人が少ない点がデメリットと考えられます。
また、米糊の場合は接着に1日以上かかるため施工期間が長くなりがちであること、膠については独特のにおいがあることといった、素材ごとの特質も覚えておきたいところです。
住宅の中で接着剤は目に見えない部分ですが、多くの面積を占めています。化学系接着剤に含まれるホルムアルデヒドは揮発性物質なので、空気中に漂い、シックハウス症候群の原因になるのが気になるところですね。
自然素材の接着剤は扱いの難しさはありますが、安全性の面ではこの上なく優れていると言えるでしょう。